障害者のリアル 中3男子
中3長男、夏休み、高校見学の時期がはじまった。
いくつか見学の希望を学校に出した。
いざ高校見学の日。この高校は、コロナの関係で保護者の見学は不可。ひとりでいかなきゃならない。
朝から、
「嫌やなぁ。行きたくないなぁ。」
とぼやく。壁や物を蹴ったり殴ったりしないだけ、まだマシ。
窮屈な制服に着替え、窮屈な制服で自転車に乗る、暑い最中に汗かきながら自転車に乗る、自転車のルートも調べなきゃならない、道調べるけど間違って到着できなかったらどうしよう、などさまざまに、目当ての高校に到着するまでにタスクや不安がいっぱいある。
それらが頭のなかを占領した結果、頭のなかがぐちゃぐちゃになり、
「嫌やなぁ。行きたくないなぁ。」という言葉になって出てくる。
はぁ。仕方ない。ひとつずつ、糸をほどけるように手助けしてあげなきゃいけない。でなきゃマジで、いけなくなって、いけなくなったことを後悔して、暴れ始めるぞ。
「ルート調べた?ママしらべたろっか」
Google Mapを起動。目的地入力。
「ほら、出たよ。この道はどう?」
わたしの携帯を見に来る。
「このルート、携帯おくったろか?」
「いいわー、覚える」
と言って、わたしの携帯を操作する。
「うん。大丈夫そう」
おぉ!タスクをひとつクリア。
「荷物の用意はしたの?」
「まだやってない」
「上靴とか文房具とかリュック入れや。リュックで行くんやろ」
「うん。リュック。わかった」
「そや、汗かくからタオルいれとき」
とタオルをわたす。
「携帯と財布、あとマスクやな」
「うん。だいじょうぶ。入れた」
よっしゃ、タスク二つ目クリア。
順調順調。
「制服きていかなかあかんねんなー?」
「そらそうやん!!めちゃいやや!!そんなんで自転車乗るなんて!!」
わぁわぁ。エキサイトしてきちゃった。おちつけおちつけ。
「うーん、でも高校行くとなると、毎日制服着て自転車に乗っていかなあかんねんで」
「ちゃうわ!!この制服きつなってるからいややねん!!ほんまマジで、もうこれいらん!!!!」
わわわ。雲行きが怪しいぞ。
「ごめんねぇ。中学の制服もう、ちっちゃなってもうたもんなぁ。広げてもらってんけど、もう限界やねんてー」
一生懸命申し訳なさそうに言う。
すこしトーンダウンしてくれる。
「ふん。わかった」
「中に体操服着ていく?」
彼の中学は、制服の下に体操服を着ていくことが通例。きょうは、中学に行くんじゃなくて、高校見学だけど、いつもと同じようにするのか聞いた。
「うん。着る」
「じゃあ、はい」
と言って、渡してあげる。過保護ですか?過保護です。でもいつもとちがうこと、はじめてのこと、非日常のことをこなすときには、お手伝いが要るのです。
これでタスク三つ目クリア。
あとは、自転車の用意して、乗っていくだけ。
まぁそれが、決して「だけ」って感じで終わらないんだけど。
出発しなきゃいけない時間も刻々とせまる。これは最終のギリギリ時間。
もともと、余裕を持った出発時間を決めてあったけど、それはもうすでに越えている。
「お茶要る?」
「要る」
「いれたるわ」
と自転車に取り付けるようのボトルにお茶をいれてやる。
あとは背中押すだけ。
「やっぱりおなかきついわぁ。自転車前傾やから絶対苦しい!!行きたくないなぁ」
「そっかぁ。でもきっと15分位で着くからなんとか我慢でけへんかな?」
内心は、「はよ、行けや!!!」だけど(笑)
「なんか困ったことあったら電話しーやー」
「ね、ちょっとがんばってみよう」
と、声かけて背中押したら、なんとか出発できた。
ふぅ。こんなん普通、友達と約束して連れ立っていくもんちゃうの。
まぁ普通ちゃうからしゃあないか。
これが、中3男子、発達障害者のリアルです。